こんにちは。
前回の続きの内容です。
扉の前に立つ1人の屈強な男。
レイの「おはようございます!」に対し、軽く返事をしたその男はすぐにカウンターの奥に入っていきました。
先輩ゲイだ。
それは誰が見てもそう思える状況でした。
すぐにカウンターの奥に入っていったので、顔は一瞬しか見ることが出来ませんでしたが、ハッキリ言わせていただくと【ただのおじさん】。
無愛想なただのおじさんでした。
しかし、その数分後、入店したときの【ただのおじさんファッション】から一変、【カリスマゲイファッション】みたいな服装に着替えた先程の男がカウンターの奥から登場したのです。
これにはかなりテンションが上がりました。
目の前にいる人こそ、僕が一番最初にイメージしていた【ゲイの方の見た目】そのものなのですから。
入店してきたときの無愛想なおじさんからのテンションのギャップに期待していた僕でしたが、数秒経った時あることに気がつきます。
無愛想なおじさんだ。
相変わらす、テンションは低く表情も暗いおじさんがそこにはいました。
ただの【着替えた無愛想なおじさん】だったのです。
無愛想おじさんは一切、僕を含めた他のお客さんとも会話することなく、カウンターのすぐ横にある鍋の中のものを味見しました。
無愛想おじさん「ねえ、これしょっぱくない?」
レイ「え、本当ですか?」
無愛想おじさん「いや『本当ですか?』じゃなくて、お客さんになんてもの食べさせてんの?」
まさに嫁と姑。
僕から言わせていただければ「お客さんになんてもの見せてんの?」という場面なのだが、それに気付く訳もなく姑の攻撃は続く。
僕のレイが虐められている。
寡黙男梅は何故かそう思い、その攻撃を止めるために何ができるかを真剣に考えました。
僕「・・・カルパッチョ!!!」
気が付くと僕は、一番最初に見たメニューの中で唯一覚えていたメニュー『カルパッチョ』を頼んでいました。
いきなり、寡黙男梅が「カルパッチョ!!!」と叫んだ事に対し、かなりビックリした様子の無愛想おじさん。
すると僕の前に仁王立ちし口を開きました。
無愛想おじさん「自己紹介が遅れました~!私、ケンジって言います!よろしくね!!!」
ここのお店は【自己紹介だけハイテンション!】みたいなスローガンでも掲げてるのか?
そう思った僕でしたが、
ケンジさん「カルパッチョね!ちょっと待っててね!!!」
ケンジさんはレイとは違い、その後のカルパッチョ制作中もテンションが高いままなのです。
単にカルパッチョがめちゃくちゃ好きなだけの可能性もありましたが、傷だらけの僕にはそのハイテンションケンジさんは【白馬の王子様】に見えたのです。
レイへの説教を止めるために行った行動が、僕の中のレイへの想いを止めてしまったのです。
そんなレイは相変わらず隣のお客さんと冗談を言い合い、楽しそうにしています。
もうレイなんて知らない!
私、いい人見つけたんだから!
かなり酔っ払っているゲイ疑惑坊主は、カルパッチョを作るゲイ確定短髪と楽しく会話をし始めるのでした。
ケンジさん「お兄さん、いくつ~?」
僕「まだ20歳なんですよ~!」
ケンジさん「えー!じゃあまだ食べ頃じゃないわね~!」
僕「ちょっとちょっと!こわいですって~!」
ケンジ「ジョーダンよ!全然ストライクゾーンよ!」
僕「いやもっとこわいですって~!」
楽しい!!!
これこそ僕が求めていたもの!!!
見てる!?レイ!!私はもう1人でさみしくお酒を飲む男じゃなくなったの!!
ケンジとのカルパッチョが出来上がりかけた頃、再び扉が開く音がしました。
酔っぱらい日本人4人組。(男女女男)
男A「よっしゃ!今日は楽しく飲ませてな-!」
その中の1人の男性が荒々しく言いました。
ふっ、バカね。ここの店員は一筋縄ではいかないよ。酔っぱらいさん。
すっかり常連客みたいな顔つきの坊主はニヤリとし、グラスの中のお酒を飲み干しました。しかし、
ケンジ「あら!また来てくれたの!久しぶり~!!!」
その4人組の中の1人の男性が常連客だったらしくケンジは、嬉しそうにその男性のほうへ向かっていったのです。
ケンジ!嘘でしょ!?アナタまで遠くへ行くの!?
僕の目の前には、あと少しで完成するはずだった2人のカルパッチョが寂しげに置き去りにされていました。
すると何処から現れたか、いつから居たのかさえ分からない、謎の高身長ゲイがカルパッチョを完成させサッと渡してきました。
急にお前誰だよ!
僕は、怒りと悲しみの感情のままカルパッチョを頬張るのでした。
右ではレイが笑顔でジョークを言い、左ではケンジが饒舌にトークを進め、目の前では謎の高身長ゲイが洗い物をしている。
あの時のカルパッチョはとても酸っぱかったです。
全てを忘れようと色々やってみたりもしました。
話す人もいないので、興味も無い海外のMVを興味がある感じで見続けたり、
さっきからずっと気になっていた『2丁目の王国 いつきNEWママ お誕生会』のフライヤーを凝視してみたり、
何か起こらないかとトイレで【面白風画像】を撮ってみたりもしました。
しかし、どれも虚しくなるだけなのです。
二つの陽グループに挟まれながら、僕はカルパッチョを黙々と食べ続けました。
半分ほど食べ終わった頃でしょうか、カルパッチョの酸味とお酒のアルコールで気持ち悪くなってしまった僕は、カウンター席で完全にダウンしてしまったのです。
???「大丈夫?」
聞き覚えのある声が僕の耳に届いてきました。
レイです。
レイ「お客さん、大丈夫ですか?飲み過ぎですよ」
何故、僕の時だけ【なんつってー!モード】ではないのか。
僕は冷たく言いました。
僕「大丈夫じゃないっす・・・」
レイ「ちょっと待ってね、お水持ってくるから!」
優しくしないでください。
あなたの事を忘れようとしていたのに。
レイからの贈り物(水)を飲んだ僕はなんだか嬉しくなり、2人の思い出の品(唐揚げ)を頼みました。すると、
レイ「お客さん!食べ過ぎじゃなーい!?」
とかなり高めのテンションで言ってきたのです。
そして、その台詞、他の店員さん達に大ウケ。
ケンジも高身長ゲイ(未だに名前は分からない)も心の中で思っていたんでしょう。
「このハゲ、よく食うなぁ~」と。
しかし、ウケてる事に変わりはありません。僕は再び「ここだ!」と思いました。
声を大にして。
ただ、レイの「なんつってー!」が聞きたいから!
己の全てをその台詞にぶつけました。
僕「僕、プロのフードファイターなんですよ!!!!!」
ケンジ「・・・え、あ、そうなの!?すごーいじゃん!!!」
⚪︎1つ目の失敗
ケンジに職業を伝えていなかった。
事前に自分の職業を伝えていなかったため”ボケ”として認識されず、本当に僕がフードファイターだと思われた。
レイ「・・・・え?さっき、芸人さんって・・・え?どっち?」
⚪︎2つ目の失敗
レイは純粋な人だった。
レイは人の言うことを全部信じてしまうタイプだったため、異なる職業を言った僕に困惑してしまった。
高身長ゲイ「・・・・・・」
⚪︎3つ目の失敗
そもそもボケが弱かった。
ボケになっていないほどのボケだったため誰も笑わなかった。
以上の失敗のせいでゲイバーの店内とは思えないほど恐ろしい雰囲気になりました。
在日3人組「・・・・・・」
日本人4人組「・・・・・・」
高身長ゲイ「・・・・・・」
ケンジ「・・・・・・・」
レイ「・・・・・・・」
僕「・・・お会計で」
僕は残っていたカルパッチョを光の速さで食べ終え、お会計を済ませました。
8030円。
スベって8030円。
ただただしんどかったです。
ライブ終わりで行ったため、コントの小道具があったのですが、行きの8倍重くなっていました。
もう来ないだろうなぁ・・・。
そう思いながらお店の扉を開けた瞬間、
レイ「またお待ちしておりますよ~!」
その日一番の大声でそう言ってくれたのです。
僕「・・・・・・ありがとう」
僕は聞こえるか聞こえないかくらいの小声で、レイに礼を言ったのです。
そう!
”レイ”だけに~!!!
「なんつってー!」
それでは。また更新します。